村上春樹『東京奇譚集』備忘録(『一人称単数』を読んだ勢いで)

村上春樹『東京奇譚集』備忘録(『一人称単数』を読んだ勢いで)

『一人称単数』の余韻を引きずったまま、実に10年ぶりに読み直した。

というのも、

『一人称単数』は、『品川猿の告白』が良かった!

と書いていたくせに、『東京奇譚集』に『品川猿』が収録されていたことも、記憶から抜け落ちていた…

あぁ悔しい。

悔しい勢いで、読み直し、勢いで備忘録をしたためた。

短編ごとの、備忘録(ネタバレ含む)

『偶然の旅人』

わ~~ここにも出てきた!チャーリー・パーカーの奇跡。

あくまでもメインは、村上春樹が、他の人物から聞いたお話なんだけど。

村上春樹自身が、偶然を呼び寄せる、強いなにかを持っていそうな気がしてならない。

『ハナレイ・ベイ』

息子を亡くし、ハワイに駆け付けた女性のお話。

酔っぱらった米兵が

「なあ、どうして日本人は自分の国を守るために戦おうとしないんだ?なんで俺たちがイワクニくんだりまで行って、あんたらを守ってやらなくちゃならないんだ?」

と絡むセリフが、かなしい。

どうしてもこの酔いどれ米国兵は、暴れるし、日本人を見下しているし…ロクな描かれ方はしていないんだけども。

確かにねぇ、アメリカ人の立場にしてみりゃ、家族と離れて、FarEastに行ってなんで守ってやらないといけないんだと。

呑気にハワイに来て波乗りしている日本人を見たら、悪態もつきたくなるわな

(別に彼らも何も悪いことをしているわけじゃないけれど。)

『どこであれそれが見つかりそうな場所で』

突如夫が消えてしまった、と依頼人である女性から相談を受け、手がかりを探していくが…

最後に、夫が見つかったとき

二十日ぶんの記憶が消滅

というフレーズが引っかかって。

あれ『一人称単数』の「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」に出てくる、風変わりなお兄さんとちょっと重なるんだよ…

記憶が抜け落ちるところが。

そして、この語り手は、永遠に何かを探し続けないといけない…ラストが、ちょっとこわかった。

『日々移動する腎臓のかたちをした石』

男が一生に出会う中で、本当に意味を持つ女は三人しかいない。

という父親のことばが、呪いのようにこびりついている青年のお話。

まぁ、女には本当に意味を持つ男なんて三人もいないと思うけど‥

爽やかな読後感がよかった。

『品川猿』

なぜだか、少しずつ自分の名前を思い出せなくなってきたと、カウンセリングを受ける女性の話。

そこで彼女が自分の話をしながら、

考えてみれば、彼女の人生にはドラマティックな要素がほとんど見当たらないのだ。。映像にたとえて言うなら、眠りを誘うことを目的として製作された低予算の環境ビデオみたいなものだ。

というフレーズが、今回読んで引っ掛かったところ。

というのも、あぁ、これが『一人称単数』の『品川猿の告白』にて、猿が打ち明けた「名前を取られるとその人が少しずつ薄っぺらくなる」という現象?と思って。

しかしこの書きっぷり、いかに「退屈な人生を送ってきたか」容赦ないな…

全体的な感想

『東京』という単語が入りつつも、下町めいた東京ではなく、

六本木だの品川だの、東京の中でも特にオシャレな雰囲気が漂う短編集だな…

この本、たぶん既に2回ほど読んでいるんだけど、あんまり覚えてないやあんまり。

読書メーターでから、昔の自分の感想を引っ張り出したら

『品川猿』は猿の陰謀だ…猿の惑星の始まりだ」と書いてあった。

実は、『品川猿の告白』でも、「これは実は綺麗な話と装って、猿の惑星の始まりでは」と一瞬妄想していた…

「言葉を話す猿=猿の惑星」って短絡的すぎるだろう。

猿はもう離れて。

『一人称単数』を読んだら、その勢いで、もう一度読み直すとまた楽しめるとは思う!

ついでに音楽。

本当はジャズが似合うんだろうけどねぇ。

収録された短編集×収録された曲 それぞれすべて「発見」しているということで。

村上春樹『東京奇譚集』×Mr.children『DISCOVERY』

https://book-ground-music.me/books/315/bgm#bgm-3960