村上春樹『一人称単数』短編ごとの備忘録。【※2020/7/22追記あり】

村上春樹『一人称単数』短編ごとの備忘録。【※2020/7/22追記あり】

kindleに、突然村上春樹の最新作が配信されていた!

天の恵みか!ジーザス!

なんのことはない、予約購入したことも、村上春樹の新作が発売されたことも忘れていただけだが、どのみち買ってすぐ読むからいいんだ‥

と、さっそく読んで、思うことを書いたぜ!

これから書くものは、村上春樹ワールドを「解釈」するほどの文章ではなく、「感想」というほど濃い文章でもなく、備忘録である。

『女のいない男たち』から6年ぶりに出版された、村上春樹の短編集について。

各短編の備忘録【適当な紹介と、感想】

『石のまくらに』

短歌を作ることが好きな女の子のお話。

彼女が好きな男は妻子持ちだが、「好きだから仕方ないじゃん」と、その男と寝る。

なんだか「俵万智になりきれなかった女の子」という印象だった。
(短歌×妻子持ち男性との恋愛)

俵万智『トリアングル』を連想してしまった。

短歌については、村上春樹より俵万智のほうが上手いと思っちゃったのは秘密

『クリ―ム』

「中心がいくつもあってやな、いや、時として無数にあってやな、しかも外周を持たない円」を想像できるか?
と、不思議な老人に問われるお話。

なんだか「海辺のカフカ」に出てきそうな一コマだった。

老人も庶民的な雰囲気だったし。

しかし…外円を持たない円って、球?違うか。

『チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ』

もし、チャーリー・パーカーがボサノヴァを演奏したら‥

あぁ。
チャーリー・パーカーの音楽が浮かんでくるような、

音楽に詳しい人間だったなら、もっと楽しめるお話だったなぁと残念。

それでも、ラストがまさに夢のようだった。

チャーリー・パーカーを知らない人間でも、ちょっとワクワクする。

『ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles』

この短編集では、『品川猿』の次に好きなお話。

10代の頃に付き合ったガールフレンドと、その風変わりなお兄さんとの思い出話

そのお兄さんが、終盤で放った一言が、重い。

やはり、どこかずれているようだ。

で、タイトルにあるように、時代は当然、ビートルズ全盛期。

青春時代の背景音楽でしかなかった。音楽的壁紙、と言ってもいいかもしれない。

そりゃあね、猫も杓子もビートルズを聴くような時代に、当然、彼らの歌(皆が好きなもの)にのめり込む主人公ではない。

しかし、この「音楽的壁紙」ってユニークな言葉だな。

思いだしたら、使いたい。

あと、自分がどの程度「本が好きか」、今後はこちらのフレーズを拝借したい。

僕は「読書家」と言えるほど系統的に緻密に本を読んできた人間ではないが、活字を読んでいないことにはうまく時間を過ごせない人間の一人だ。

そう、文学部で体系的に近代文学を専攻したとか、まさに村上春樹作品を精読したとか、そういう読書家でもなく。

かといって、速読術を習得して、年間1000冊本を読むような読書家でもなく。

本のページを繰るか、あるいは音楽に耳を澄ますか、そういう作業がどうしても必要になる。読むべき本がなければ、そのへんにある印刷物をなんでもいいから手に取る。電話帳だって読むし、スチームアイロンの取り扱い説明書だって読む。

わかる!何もないとスーパーのチラシでも、なんでも読んじゃうんだよなぁ。

そして作中にて語られていた、このジャケットのことかな?確かにかっこいい。

『ヤクルト・スワローズ詩集』

これは…エッセイの一部が、短編集に紛れ込んだような印象。

阪神タイガースに思うところがあり…という記述は特に、

『猫を棄てる 父親について語るとき』の続きを読んでいる気分だった。

『謝肉祭(Carnaval)』

醜くて、魅力的な女性についてのお話。

村上春樹の文章で、「醜さ」を語られるほど、容赦ないものもない気がする。

『ねじまき鳥クロニクル』『1Q84』に出てくる縮れ毛のアイツ、

牛河を思い出してしまった。

なお、こちらの女性は、醜いパーツが集合して醜い牛河とは、異なる醜さである。

この女性が、なんとなく木嶋佳苗で再生されたのは私だけだろうか…。

(未読の方が、木嶋佳苗を浮かべながらこの作品を読んでしまったら申し訳ないw)

(『1Q84』の文庫版5巻のアルファベットwみんなのアイドル牛河。)

『品川猿の告白』

今回一番好きなお話はこれ。

群馬の、とある温泉宿に立ち寄ったところ、人間の言葉を使う猿に出会った話。

羊男や一角獣のような架空の生き物ではなく、ただの猿なんだけどね。

大学教授に可愛がられたというだけあり、猿の中ではきっと、

相当奥ゆかしい猿。

猿が身の上話をするうちに、恋愛の話にもなるのだが、

印象的だったのがこのフレーズ。

「しかしたとえ愛は消えても、愛がかなわなくても、自分が誰かを愛した、誰かに恋したという記憶をそのまま抱き続けることはできます。それもまた、我々にとっての貴重な熱源となります。」

感激して涙ちょちょ切れる!ってわけじゃなくて、これ『アフター・ダーク』につながる!と思って。

ほら、「いい記憶も悪い記憶も燃料みたいなもの」みたいなセリフがあった気がする…。

(余談だけど、きっとこのフレーズ、Kindleハイライトがベタベタ引かれるんだろうな…。)

で、たぶんこの話、政治的解釈とも結びつけられそうな話だろうが…それも、なんだかね。

『一人称単数』

お気に入りの音楽を聴き、お気に入りのミステリー小説を読んでも、なんとなく落ち着かない‥とバーに出かける。

そこで変わった女に話しかけられ…

いや、単に精神ヤられた女に、絡まれただけじゃない?とも読めるんだけど、ラストが不気味だった。

長編のワンシーンみたい…不気味な世界に巻き込まれる前触れのようだ。

ほんの少しのずれから、今いるところにもう戻れない感じ

(ちょっとTVピープル「眠り」も連想した)

しかし、ポール・スミスのスーツを着こなせる男性って、なんかいいな。

全体としての感想

「あぁこれはあのメタファーだ」「あの作品につながる」という発見も、解釈も浮かばず、随分村上春樹から遠ざかっちまったぜ。

きっと何年か置いて、あるいは他の作品を読んでまた読み直せば、違う感想を抱くのだろうけれど。

やれやれ。

正直、前回の短編集『女のいない男たち』のほうが、毛色がはっきりしていたなぁという印象。

その分、人によって好みが分かれるかなぁと他の人の感想文もあさってみたい本ではある。

【追記】

『品川猿の告白』がいちばんすき~、なんて言っているわりに、

『東京奇譚集』に『品川猿』という短編集が収録されていたことを、すっかり忘れていた。

『一人称単数』とあわせて読み直すと、楽しいよきっと。