奥田英朗『サウス・バウンド』【自由の風を吹かせ続ける】2006年本屋大賞第2位
10代のころ、最も好きな本に挙げていた小説だ。
10年ぶりに再読。やっぱり好きだ。
そのあと2000冊くらい他の本を読んでもなお、マイベスト10に入るわ。
いろんな女と遊んだけど、やっぱりお前が一番だよ♡じゃないけどw
たぶん私の価値観はこの小説も影響している。
周りに流されたくない。群れたくない。
おかしいことはおかしいと言える人でいたい。
この小説の元過激派父ちゃんが、心のどこかに居座っていたようだ。笑
1.概要
主人公上原二郎は、中野に住む小学6年生。
姉には「12歳になったら教えたいことがある」と言われたが、もうすぐその12歳を迎えようとしている‥。
友人に、熱心な担任の先生、優しい母(さくら)と、美人の姉(洋子)にかわいい妹(桃子)に囲まれた生活。
学校は楽しいし、家族も仲が悪いわけじゃない。
しかし、問題は父だ。その筋では有名な元過激派の父。(自称作家。)
猫が逃げるほど地声が大きい。
革命だのプロレタリアートだのブルジョワジーだの、と難しいことばを並べ立てるが働いてもいない。
家庭訪問に来た担任の先生に、突然天皇制について議論を吹っ掛けるなんてどうかしている。
おまけに最近、中学生の不良カツとその子分黒木がキナ臭い。
子どもには子どもの世界で大変なのだ。
後半は舞台ががらっと変わって沖縄へ。
子どもから見た大人の姿、過激派父のパンチの強さ、さわやかで力をもらえる一冊。
2.感想
元過激派のお父ちゃんがカッコいい!これにつきる。
(1)社会不適合者?東京編
父の地声の大きさは尋常ではない。近所の猫が逃げ出すのだ。
しょっぱなから、このフレーズに思わず吹きだす。
元過激派のお父さん、どんな癖が強いエピソードが待っているのだろうと。
ただ東京が舞台となった前半は、社会不適合者にしか思えなくて。
働いていない。
子どもの担任の先生にいきなり議論を仕掛け、TPOもわきまえない。
「今読み返すとしょうもなく見える‥感想も変わるということは、ワタクシも大人になったのね」と、読み進めていたけれど。
いやいやとんでもなかった。
あれれ、やっぱり元過激派父ちゃんかっこいいな!
と見直したのが、警官やマスコミ相手にかました演説だ。
革命は運動では起きない。個人が心の中で起こすものだ
私も個人主義のところがあるから、響いた。
集団は所詮、集団だ。
ブルジョアジーもプロレタリアートも、集団になれば同じだ。
権力を欲しがり、それを守ろうとする。
学生運動がダサく思えるのは、セクト争いや内ゲバなど権力が目的になっているからなんだよな。
権力を叩いていることに満足している感じもあるし。
「個人単位で考えられる人間だけが、本当の幸福と自由を手にできるんだ。
深い。
夏目漱石『私の個人主義』を思い出した。
まぁこのお父さんはおよそ親らしくないのだが。
子どもに「頭はまずいから膝の裏を鉄パイプで攻撃しろ」と喧嘩の助言をするくらいだから。
近所のおじさんくらいなら面白い。
でも、親だと大変そう。
(2)誰のための運動?自己欺瞞の反対運動。
後半、舞台は沖縄へ。
石垣島に渡ったあたりから、元過激派父ちゃんのパンチ炸裂!
波照間島の廃墟に一家は住み着くが、そこは開発会社が所有している土地だった。
しかしリゾート開発には、地元でも強い反対意見がある。
さっそくリゾート開発に反対する環境保護団体が、父に目を付けた。
「伝説の元過激派が加わってくれれば、マスコミ映えもするから仲間になってくれ」と切り出す。
群れるのが嫌いな人が加わるわけはないが。
当然、俺は加わらんと断ったあとに
沖縄生まれならともかく、内地の人間が勝手に南の島に憧れ、自分探しで環境保護運動をするのは迷惑は話だ。
と残した言葉が、今回読んで印象が強かった。
原発や米軍基地の反対運動にも通じるものがある。
ワチャワチャ騒いでいるのは、実は当事者ではなくよそ者という印象だ。
まさに「運動のための運動」。
「正義」をかざして群れる大人たちを、さらっ描いている。
著者本人の主義を押しつける感じではなく、絶妙な塩梅だ。
(3)どうしようもない腹の虫※ネタバレ&最大の名言
「二郎、世の中にはな、最後まで抵抗することで徐々に変わっていくことがあるんだ。
誰かが戦わない限り、社会は変わらない。おとうさんはその一人だ。
そうだ、奴隷制度も選挙権も、すぐに変わったわけじゃない。
でも、声をあげることで、流れが変わることもある。
東京にいる、南先生の手紙も良かったな…。
元過激派が闘った、たしかに響いた人がいたんだと。
続けて共感しかないこのセリフ。
おとうさんの中にはな、自分でもどうしようもない腹の虫がいるんだ。
それに従わないと、自分が自分じゃなくなる。
あぁ、この自分が自分じゃなくなる感覚…よくわかる。笑
自分でも馬鹿だなぁとわかってはいる。
でも、馬鹿になるより、自分が自分じゃなくなるほうがイヤ。
あと、これは子どもたちを対等に扱っているから出てくる言葉でもあるなと。
子どもが大人を、一人の人間として見つめる。
それもこの小説の醍醐味だな。
(4)いつも心に革命を。
テレビの前の大人たちは、一度も戦ったことがないし、この先も戦う気はない。
戦う人間を、安全な場所から見物し、したり顔で論評する。そして最後には冷笑する。
それが父以外の、大多数の大人だ。
ふと、自分も「大多数の大人」になっていないだろうかと怖くなった。
こんな元過激派の名セリフばっかり引用している時点で、そうもなりきれないか。
自分ができる範囲でいいから、戦える人でいたいな。
公安にマークはされたくないけどw
3.まとめ
私も自分を曲げられなくて、人一倍生きづらい。
群れない。流されない。おかしいと思ったことは主張する。
常にそうありたいけど、大変疲れる生き方でもある。
でも、この元過激派父ちゃんの姿を見て、なんか希望がわいてきた。笑
自分を貫くことで、誰かが勇気づけられることだってあるんだから。
改めて、心に元過激派を迎え入れた感じ。笑
久しぶりに小説で泣いたぜ。
ストレングスファインダーの「自我」が刺激されたんだ。
自分の行動が、変化を起こす。自分の行動は残り続ける‥と。
最初は自己確信が強そうと思ったけどね。
この元過激派父ちゃん、映画の試写会で塩対応されたあたりとか、自我も強そうw
ほかにも、おかしいものをおかしいと主張尾できるところで、指令性を刺激された。笑
逆に調和性、共感性あたりはあわないか。真逆で憧れるか。
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